第9回 セラピー犬チロリ

 地下鉄の東銀座駅にほど近い区立築地川銀座公園には、母イヌと5匹の子イヌの銅像があります。母イヌの名は「チロリ」。高齢者や身障者の心身機能回復のケアを補助をする「セラピー犬」として活躍しました。
 チロリは右脚が少し不自由な雑種の野良犬でした。1992年、千葉県内の工場の廃屋で子育てをしているところを、近くの小学生たちが見つけて、「チロリ」と名付けて世話をしていました。
 たまたま通りかかった大木トオルさんが、このままでは保健所で処分されると思い、飼ってもらえる人を探しました。5匹の子イヌは里親が決まりましたが、脚の不自由なチロリは里親が決ませんでした。 

 大木さんはブルース歌手としてアメリカで活動中にセラピー犬の存在を知ります。日本でもセラピー犬の普及を図ろうと、シベリアンハスキー数頭の訓練を始めていました。その施設でチロリも一緒に育てました。
 訓練犬の中に末期がんになったシベリアンハスキーがいました。チロリは衰弱していくそのイヌに寄り添うようになります。
 チロリにはセラピー犬の資質があると確信した大木さんは、チロリを訓練して1996年にセラピー犬となります。
 高齢者や障害者の介護施設を訪れて、患者さんと触れ合います。イヌ好きだった患者のなかには、動かなかった手でチロリを撫で始めたり、失語症だった人がイヌの名前を呼んだり、歩行困難な患者が脚を震わせながら立ち上がったりしたこともありました。
 そんなチロリも徐々に体が衰え、2006年に亡くなります。
    翌07年、築地川銀座公園に銅像が建てられました。

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