第3回 西郷隆盛とツン

12月18日、イチョウの葉もほとんど散った上野公園に、西郷隆盛像を訪ねました。
1898年のこの日、西郷造像の除幕式が行われました。当日は冬にしては穏やかな日だったようで、最高気温は14.6度との記録が気象台に残っています。
西郷隆盛は1877年9月、「西南戦争」で政府軍に敗れて自刃しました。政府に反抗したため、西郷は「逆賊」とされましたが、1889年に大日本帝国憲法発布による大赦で罪は赦されました。これを機に銅像建立の話が持ち上がり、西郷像は高村光雲が、連れているイヌの像は後藤貞行が手掛けました。
当初は、陸軍大将だった軍服姿の西郷像が考えられましたが、「大赦されたとはいえ逆賊に軍服はどうなのか」という意見が出て、今の姿になったとのことです。

銅像はウサギ狩りに出かける西郷の姿で、脇にいるのは「ツン」という薩摩犬だそうです。銅像制作時、「ツン」はすでに亡くなっていたため、他の薩摩犬をモデルにしました。「ツン」はメスでしたが、銅像のモデルはオスだったそうです。
除幕式には、西郷夫人の糸子さんも出席。銅像を見て「うちの人は、こげなお人ではなか」と語ったといいます。「顔が似ていない」ということではなく、「このような着流し姿で人前にでるような人ではない」という意味だったようです。
第2次大戦が始まると、金属不足から多くの銅像は回収されて、武器などに転用されました。第1回で紹介した渋谷のハチ公像も戦争中に回収され、今のハチ公像は1948年に再建された2代目の像です。しかし西郷像は、その人気から回収されませんでした。
敗戦後、GHQの間接支配が始まると、軍人の銅像などは「軍国主義的」として撤去されました。西郷像が当初案の通り軍服姿だったら、「ツン」と共に撤去されていたかもしれません。
愛犬ツンを連れた西郷像は「上野の西郷さん」と親しみを込めて呼ばれ、戦中の金属回収も、敗戦後のGHQ支配もくぐり抜けて、125年前から上野公園に立ち続けています。

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